のとりがお日さまの光をさえぎって飛んで行きました。そして一寸からだをひるがえしましたのではねうらが桃色にひらめいて或《ある》いはほんとうの火がそこに燃えているのかと思われました。若い木霊の胸は酒精《アルコール》で一ぱいのようになりました。そして高く叫びました。
「お前は鴾という鳥かい。」
鳥は
「そうさ、おれは鴾だよ。」といいながら丘の向うへかくれて見えなくなりました。若い木霊はまっしぐらに丘をかけのぼって鳥のあとを追いました。丘の頂上に立って見るとお日さまは山にはいるまでまだまだ間がありました。鳥は丘のはざまの蘆《あし》の中に落ちて行きました。若い木霊は風よりも速く丘をかけおりて蘆むらのまわりをぐるぐるまわって叫びました。
「おおい。鴾。お前、鴾の火というものを持ってるかい。持ってるなら少しおらに分けて呉《く》れないか。」
「ああ、やろう。しかし今、ここには持っていないよ。ついてお出《い》で。」
鳥は蘆の中から飛び出して南の方へ飛んで行きました。若い木霊はそれを追いました。あちこち桜草の花がちらばっていました。そして鳥は向うの碧いそらをめがけてまるで矢のように飛びそれから急に石こ
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