うな小さなやつがおれについて歩けると思うのかい。ふん。さよならっ。」
 やどり木は黄金色のべそをかいて青いそらをまぶしそうに見ながら「さよなら。」と答えました。
 若い木霊は思わず「アハアハハハ」とわらいました。その声はあおぞらの滑《なめ》らかな石までひびいて行きましたが又それが波になって戻《もど》って来たとき木霊はドキッとしていきなり堅《かた》く胸を押《おさ》えました。
 そしてふらふら次の窪地にやって参りました。
 その窪地はふくふくした苔《こけ》に覆《おお》われ、所々やさしいかたくりの花が咲いていました。若い木だまにはそのうすむらさきの立派な花はふらふらうすぐろくひらめくだけではっきり見えませんでした。却《かえ》ってそのつやつやした緑色の葉の上に次々せわしくあらわれては又消えて行く紫色《むらさきいろ》のあやしい文字を読みました。
「はるだ、はるだ、はるの日がきた、」字は一つずつ生きて息をついて、消えてはあらわれ、あらわれては又消えました。
「そらでも、つちでも、くさのうえでもいちめんいちめん、ももいろの火がもえている。」
 若い木霊ははげしく鳴る胸を弾《はじ》けさせまいと堅く堅く
前へ 次へ
全9ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング