へついたらとってあげますよ。それとも坊ちゃんもう下りますか。」ハーシュは松林の向ふの水いろに光る空を見ながら云ひました。
「下りない。」子供がしっかりつかまりながら答へました。ハーシュはまた車を引っぱりました。
 ところがそのうちにハーシュはあんまり車ががたがたするやうに思ひましたのでふり返って見ましたら車の輪は両方下の方で集まってくさび形になってゐました。
「みちのまん中が凹んでゐるためだ。それにどこかこはれたな。」ハーシュは思ひながらとまってしづかにかぢをおろしだまって車をしらべて見ましたら車輪のくさびが一本ぬけてゐました。
「坊ちゃん、もうおりて下さい。車がこはれたんですよ。あぶないですから。」
「いやだよう。」
「仕方ないな。」ハーシュはつぶやきながらあたりを見まはしました。たしかに構はないで置けば車輪はすっかり抜けてしまふのでした。
「坊ちゃん、では少し待ってゐて下さいね。いま繩《なは》をさがしますから。」ハーシュはすぐ前の左の方に入って行くちひさな路を見付けて云ひました。そしてそのみちは向ふの林のかげの一軒の百姓家へ入るらしいのでした。ハーシュはそのみちを急いで行きました。
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