宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)籠《かご》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四|罐《くわん》だけ、
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 ハーシュは籠《かご》を頭に載っけて午前中町かどに立ってゐましたがどう云《い》ふわけか一つも仕事がありませんでした。呆《あき》れて籠をおろして腰をかけ弁当をたべはじめましたら一人の赤髯《あかひげ》の男がせはしさうにやって来ました。
「おい、大急ぎだ。兵営の普請に足りなくなったからテレピン油《ゆ》を工場から買って来て呉《く》れ。そら、あすこにある車をひいてね、四|罐《くわん》だけ、この名刺を持って行くんだ。」
「どこへ行くのです。」ハーシュは弁当をしまって立ちあがりながら訊《き》きました。
「そいつを今云ふよ。いゝか。その橋を渡って楊《やなぎ》の並木に出るだらう。十町ばかり行くと白い杭《くひ》が右側に立ってゐる。そこから右に入るんだ。すると蕈《きのこ》の形をした松林があるからね、そいつに入って行けばいゝんだ。いや、路《みち》がひとりでそこへ行くよ。林の裏側に工場がある。さあ、早く。」
 ハーシュは大きな名刺を受け取
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