りました。赤髯の男はぐいぐいハーシュの手を引っぱって一台のよぼよぼの車のとこまで連れて行きました。
「さあ、早く。今日中に塗っちまはなけぁいけないんだから。」
ハーシュは車を引っぱりました。
間もなくハーシュは楊並木の白い杭の立ってゐる所まで来ました。
「おや、蕈の形の林だなんて。こんな蕈があるもんか。あの男は来たことがないんだな。」ハーシュはそっちの方へ路をまがりながら貰《もら》って来た大きな名刺を見ました。
「土木建築設計工作等請負 ニジニ・ハラウ、ふん、テレピン油の工場だなんて見るのははじめてだぞ。」
ハーシュは車をひいて青い松林のすぐそばまで来ました。すがすがしい松脂《まつやに》のにほひがして鳥もツンツン啼《な》きました。みちはやっと車が通るぐらゐ、おほばこが二列にみちの中に生え、何べんも日が照ったり蔭《かげ》ったりしてその黄いろのみちの土は明るくなったり暗くなったりしました。ふとハーシュは縮れ毛の可愛らしい子供が水色の水兵服を着て空気銃を持ってばらの藪《やぶ》のこっち側に立ってしげしげとハーシュの車をひいて来るのを見てゐるのに気が付きました。あんまりこっちを見てゐるので
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