ぶやきました。そしてからだをかゞめて、そろりそろりと、そつちに近《ちか》よつて行《ゆ》きました。
一むらのすすきの陰《かげ》から、嘉十《かじふ》はちよつと顔《かほ》をだして、びつくりしてまたひつ込《こ》めました。六|疋《ぴき》ばかりの鹿《しか》が、さつきの芝原《しばはら》を、ぐるぐるぐるぐる環《わ》になつて廻《まは》つてゐるのでした。嘉十《かじふ》はすすきの隙間《すきま》から、息《いき》をこらしてのぞきました。
太陽《たいやう》が、ちやうど一本《いつぽん》のはんのきの頂《いたゞき》にかかつてゐましたので、その梢《こずゑ》はあやしく青《あを》くひかり、まるで鹿《しか》の群《むれ》を見《み》おろしてぢつと立《た》つてゐる青《あを》いいきもののやうにおもはれました。すすきの穂《ほ》も、一本《いつぽん》づつ銀《ぎん》いろにかがやき、鹿《しか》の毛並《けなみ》がことにその日《ひ》はりつぱでした。
嘉十《かじふ》はよろこんで、そつと片膝《かたひざ》をついてそれに見《み》とれました。
鹿《しか》は大《おほ》きな環《わ》をつくつて、ぐるくるぐるくる廻《まは》つてゐましたが、よく見《み》るとどの
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