少《すこ》し青《あを》ざめてぎらぎら光《ひか》つてかかりました。
 嘉十《かじふ》は芝草《しばくさ》の上《うへ》に、せなかの荷物《にもつ》をどつかりおろして、栃《とち》と粟《あわ》とのだんごを出《だ》して喰《た》べはじめました。すすきは幾《いく》むらも幾《いく》むらも、はては野原《のはら》いつぱいのやうに、まつ白《しろ》に光《ひか》つて波《なみ》をたてました。嘉十《かじふ》はだんごをたべながら、すすきの中《なか》から黒《くろ》くまつすぐに立《た》つてゐる、はんのきの幹《みき》をじつにりつぱだとおもひました。
 ところがあんまり一生《いつしやう》けん命《めい》あるいたあとは、どうもなんだかお腹《なか》がいつぱいのやうな気《き》がするのです。そこで嘉十《かじふ》も、おしまひに栃《とち》の団子《だんご》をとちの実《み》のくらゐ残《のこ》しました。
「こいづば鹿《しか》さ呉《け》でやべか。それ、鹿《しか》、来《き》て喰《け》」と嘉十《かじふ》はひとりごとのやうに言《い》つて、それをうめばちさうの白《しろ》い花《はな》の下《した》に置《お》きました。それから荷物《にもつ》をまたしよつて、ゆつくり
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