べろりと甞《な》めましたが、にはかに怖《こは》くなつたとみえて、大《おほ》きく口《くち》をあけて舌《した》をぶらさげて、まるで風《かぜ》のやうに飛《と》んで帰《かへ》つてきました。みんなもひどく愕《おど》ろきました。
「ぢや、ぢや、噛《か》ぢらへだが、痛《いた》ぐしたが。」
「プルルルルルル。」
「舌《した》抜《ぬ》がれだが。」
「プルルルルルル。」
「なにした、なにした。なにした。ぢや。」
「ふう、あゝ、舌《した》縮《ちゞ》まつてしまつたたよ。」
「なじよな味《あじ》だた。」
「味《あじ》無《な》いがたな。」
「生《い》ぎもんだべが。」
「なじよだが判《わか》らない。こんどあ汝《うな》あ行《い》つてみろ。」
「お。」
 おしまひの一|疋《ぴき》がまたそろそろ出《で》て行《い》きました。みんながおもしろさうに、ことこと頭《あたま》を振《ふ》つて見《み》てゐますと、進《すゝ》んで行《い》つた一|疋《ぴき》は、しばらく首《くび》をさげて手拭《てぬぐひ》を嗅《か》いでゐましたが、もう心配《しんぱい》もなにもないといふ風《ふう》で、いきなりそれをくわいて戻《もど》つてきました。そこで鹿《しか》
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