スやちしゃのようなものが山野に自生するようにならないと産業《さんぎょう》もほんとうではありませんな。」
「へえ。ずいぶんなご卓見《たっけん》です。しかしあなたは紫紺《しこん》のことはよくごぞんじでしょうな。」
 みんなはしいんとなりました。これが今夜の眼目《がんもく》だったのです。山男はお酒《さけ》をかぶりと呑《の》んで云《い》いました。
「しこん、しこんと。はてな聞いたようなことだがどうもよくわかりません。やはり知らないのですな。」みんなはがっかりしてしまいました。なんだ、紫紺のことも知らない山男など一向《いっこう》用はないこんなやつに酒を呑《の》ませたりしてつまらないことをした。もうあとはおれたちの懇親会《こんしんかい》だ、と云うつもりでめいめい勝手《かって》にのんで勝手にたべました。ところが山男にはそれが大へんうれしかったようでした。しきりにかぶりかぶりとお酒をのみました。お魚が出ると丸ごとけろりとたべました。野菜《やさい》が出ると手をふところに入れたまま舌《した》だけ出してべろりとなめてしまいます。
 そして眼《め》をまっかにして「へろれって、へろれって、けろれって、へろれって
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