事《しょくじ》が進《すす》んではなしもはずみました。
「いやじっさいあの辺《へん》はひどい処《ところ》だよ。どうも六百からの棄権《きけん》ですからな。」
 なんて云っている人もあり一方ではそろそろ大切な用談《ようだん》がはじまりかけました。
「ええと、失礼《しつれい》ですが山男さん、あなたはおいくつでいらっしゃいますか。」
「二十九です。」
「お若《わか》いですな。やはり一年は三百六十五日ですか。」
「一年は三百六十五日のときも三百六十六日のときもあります。」
「あなたはふだんどんなものをおあがりになりますか。」
「さよう。栗《くり》の実《み》やわらびや野菜《やさい》です。」
「野菜はあなたがおつくりになるのですか。」
「お日さまがおつくりになるのです。」
「どんなものですか。」
「さよう。みず、ほうな、しどけ、うど、そのほか、しめじ、きんたけなどです。」
「今年はうどの出来がどうですか。」
「なかなかいいようですが、少しかおりが不足《ふそく》ですな。」
「雨の関係《かんけい》でしょうかな。」
「そうです。しかしどうしてもアスパラガスには叶《かな》いませんな。」
「へえ」
「アスパラガ
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