。
もう食堂《しょくどう》のしたくはすっかり出来て、扇風機《せんぷうき》はぶうぶうまわり、白いテーブル掛《か》けは波《なみ》をたてます。テーブルの上には、緑《みどり》や黒の植木《うえき》の鉢《はち》が立派《りっぱ》にならび、極上等《ごくじょうとう》のパンやバターももう置《お》かれました。台所《だいどころ》の方からは、いい匂《におい》がぷんぷんします。みんなは、蚕種取締所《さんしゅとりしまりじょ》設置《せっち》の運動《うんどう》のことやなにか、いろいろ話し合いましたが、こころの中では誰《だれ》もみんな、山男がほんとうにやって来るかどうかを、大へん心配《しんぱい》していました。もし山男が来なかったら、仕方《しかた》ないからみんなの懇親会《こんしんかい》ということにしようと、めいめい考えていました。
ところが山男が、とうとうやって来ました。丁度《ちょうど》、六時十五分前に一台の人力車《じんりきしゃ》がすうっと西洋軒《せいようけん》の玄関《げんかん》にとまりました。みんなはそれ来たっと玄関にならんでむかえました。俥屋《くるまや》はまるでまっかになって汗《あせ》をたらしゆげをほうほうあげなが
前へ
次へ
全14ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング