ら膝《ひざ》かけを取《と》りました。するとゆっくりと俥から降《お》りて来たのは黄金色《きんいろ》目玉あかつらの西根山《にしねやま》の山男でした。せなかに大きな桔梗《ききょう》の紋《もん》のついた夜具《やぐ》をのっしりと着込《きこ》んで鼠色《ねずみいろ》の袋《ふくろ》のような袴《はかま》をどふっとはいておりました。そして大きな青い縞《しま》の財布《さいふ》を出して、
「くるまちんはいくら。」とききました。
 俥屋はもう疲《つか》れてよろよろ倒《たお》れそうになっていましたがやっとのことで斯《こ》う云《い》いました。
「旦那《だんな》さん。百八十|両《りょう》やって下さい。俥はもうみしみし云っていますし私はこれから病院《びょういん》へはいります。」
 すると山男は、
「うんもっともだ。さあこれだけやろう。つりは酒代《さかだい》だ。」と云いながらいくらだかわけのわからない大きな札《さつ》を一|枚《まい》出してすたすた玄関にのぼりました。みんなははあっとおじぎをしました。山男もしずかにおじぎを返《かえ》しながら、
「いやこんにちは。お招《まね》きにあずかりまして大へん恐縮《きょうしゅく》です。
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