もろこしの粒の落ちて来るのがとまりました。それからもう四粒ばかりぽろぽろっところがって来たと思ふとあとは器械ばかりまるで今までとちがった楽なやうな音をたてながらまはりつゞけました。
「無くなったな。」赤シャツの農夫はつぶやいて、も一度シャツの袖《そで》でひたひをぬぐひ、胸をはだけて脱穀小屋の戸口に立ちました。
「これで午だ。」天井でも叫んでゐます。
る、る、る、る、る、る、る、る、る、る。
器械はやっぱり凍ったはたけや牧草地の雪をふるはせてまはってゐます。
脱穀小屋の庇《ひさし》の下に、貯蔵庫から玉蜀黍のそりを牽《ひ》いて来た二|疋《ひき》の馬が、首を垂れてだまって立って居ました。
赤シャツの農夫は馬に近よって頸《くび》を平手で叩《たた》かうとしました。
その時、向ふの農夫室のうしろの雪の高みの上に立てられた高い柱の上の小さな鐘が、前後にゆれ出し音はカランカランカランカランとうつくしく雪を渡って来ました。今までじっと立ってゐた馬は、この時一緒に頸をあげ、いかにもきれいに歩調を踏んで、厩《うまや》の方へ歩き出し、空《から》のそりはひとりでに馬について雪を滑って行きました。赤シャ
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