見あげながら。
 赤シャツはすっかりどきまぎしてしまひました。そしてきまりの悪いのを軽く足ぶみなどをしてごまかしながらみんなの仕度のできるのを待ってゐました。

      二、午前十二時

 る、る、る、る、る、る、る、る、る、る、る。
 脱穀器は小屋やそこら中の雪、それからすきとほったつめたい空気をふるはせてまはりつゞけました。
 小屋の天井にのぼった人たちは、器械の上の方からどんどん乾いた玉蜀黍《たうもろこし》をはふり込みました。
 それはたちまち器械の中で、きれいな黄色の穀粒と白い細長い芯《しん》とにわかれて、器械の両側に落ちて来るのでした。今朝来たばかりの赤シャツの農夫は、シャベルで落ちて来る穀粒をしゃくって向ふに投げ出してゐました。それはもう黄いろの小山を作ってゐたのです。二人の農夫は次から次とせはしく落ちて来る芯を集めて、小屋のうしろの汽罐室《きくゎんしつ》に運びました。
 ほこりはいっぱいに立ち、午《ひる》ちかくの日光は四つの窓から四本の青い棒になって小屋の中に落ちました。赤シャツの農夫はすっかり塵《ちり》にまみれ、しきりに汗をふきました。
 俄《には》かにピタッとたう
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