耕耘部の時計
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)耕耘部《かううんぶ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|疋《ひき》の
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      一、午前八時五分

 農場の耕耘部《かううんぶ》の農夫室は、雪からの反射で白びかりがいっぱいでした。
 まん中の大きな釜《かま》からは湯気が盛んにたち、農夫たちはもう食事もすんで、脚絆《きゃはん》を巻いたり藁沓《わらぐつ》をはいたり、はたらきに出る支度をしてゐました。
 俄《には》かに戸があいて、赤い毛布《けっと》でこさへたシャツを着た若い血色のいゝ男がはひって来ました。
 みんなは一ぺんにそっちを見ました。
 その男は、黄いろなゴムの長靴《ながぐつ》をはいて、脚をきちんとそろへて、まっすぐに立って云《い》ひました。
「農夫長の宮野目さんはどなたですか。」
「おれだ。」
 かゞんで炉に靴下を乾かしてゐたせいの低い犬の毛皮を着た農夫が、腰をのばして立ちあがりました。
「何か用かい。」
「私は、今事務所から、こちらで働らけと云はれてやって参りました。」
 農夫長はうなづきました。
「さう
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