たので。」
「さうか。そのわなは何をとる為《ため》だ。」
「鶏です。」
「あゝ呆《あき》れたやつだ。困ったもんだ。」と獅子《しし》は大きくため息をつきました。狐《きつね》もおいおい泣きだしました。
向ふから白熊《しろくま》が一目散に走って来ます。獅子は道へステッキをつき出して呼びとめました。
「とまれ、白熊、とまれ。どうしたのだ。ひどくあわててゐるではないか。」
「はい。象めが私の鼻を延ばさうとしてあんまり強く引っ張ります。」
「ふん、さうか。けがは無いか。」
「鼻血を沢山出しました。そして卒倒しました。」
「ふん。さうか。それ位ならよからう。しかしお前は象の弟子にならうといったのか。」
「はい。」
「さうか。あんなに鼻が延びるには天才でなくてはだめだ。引っぱる位でできるもんぢゃない。」
「はい。全くでございます。あ、追ひかけて参りました。どうかよろしくおねがひ致します。」
白熊は獅子のかげにかくれました。
象が地面をみしみし云はせて走って来ましたので獅子が又ステッキを突き出して叫びました。
「とまれ、象。とまれ。白熊はこゝに居る。お前は誰《たれ》をさがしてゐるんだ。」
「白熊で
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