月夜のけだもの
宮沢賢治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)煉瓦塀《れんぐわべい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)狸は又|藪《やぶ》の
−−
十日の月が西の煉瓦塀《れんぐわべい》にかくれるまで、もう一時間しかありませんでした。
その青じろい月の明りを浴びて、獅子《しし》は檻《をり》のなかをのそのそあるいて居《を》りましたが、ほかのけだものどもは、頭をまげて前あしにのせたり、横にごろっとねころんだりしづかに睡《ねむ》ってゐました。夜中まで檻の中をうろうろうろうろしてゐた狐《きつね》さへ、をかしな顔をしてねむってゐるやうでした。
わたくしは獅子の檻のところに戻って来て前のベンチにこしかけました。
するとそこらがぼうっとけむりのやうになってわたくしもそのけむりだか月のあかりだかわからなくなってしまひました。
いつのまにか獅子が立派な黒いフロックコートを着て、肩を張って立って
「もうよからうな。」と云《い》ひました。
すると奥さんの獅子が太い金頭のステッキを恭しく渡しました。獅子はだまって受けとって脇《わき》にはさんでのそりのそ
次へ
全11ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング