りとこんどは自分が見まはりに出ました。そこらは水のころころ流れる夜の野原です。
 ひのき林のへりで獅子は立ちどまりました。向ふから白いものが大へん急いでこっちへ走って来るのです。
 獅子はめがねを直してきっとそれを見なほしました。それは白熊《しろくま》でした。非常にあわててやって来ます。獅子が頭を一つ振って道にステッキをつき出して云ひました。
「どうしたのだ。ひどく急いでゐるではないか。」
 白熊がびっくりして立ちどまりました。その月に向いた方のからだはぼうっと燐《りん》のやうに黄いろにまた青じろくひかりました。
「はい。大王さまでございますか。結構なお晩でございます。」
「どこへ行くのだ。」
「少し尋ねる者がございまして。」
「誰《たれ》だ。」
「向ふの名前をつい忘れまして、」
「どんなやつだ。」
「灰色のざらざらした者ではございますが、眼《め》は小さくていつも笑ってゐるやう。頭には聖人のやうな立派な瘤《こぶ》が三つございます。」
「ははあ、その代り少しからだが大き過ぎるのだらう。」
「はい。しかしごくおとなしうございます。」
「所がそいつの鼻ときたらひどいもんだ。全体何の罰であんな
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