す。私の弟子にならうと云ひます。」
「うん。さうか。しかし白熊はごく温和《おとな》しいからお前の弟子にならなくてもよからう。白熊は実に無邪気な君子だ。それよりこの狐を少し教育してやって貰《もら》ひたいな。せめてうそをつかない位迄な。」
「さうですか。いや、承知いたしました。」
「いま毛をみんなむしらうと思ったのだがあんまり可哀さうでな。教育料はわしから出さう。一ヶ月八百円に負けて呉《く》れ。今月分|丈《だ》けはやって置かう。」獅子はチョッキのかくしから大きながま口を出してせんべい位ある金貨を八つ取り出して象にわたしました。象は鼻で受けとって耳の中にしまひました。
「さあ行け。狐《きつね》。よく云ふことをきくんだぞ。それから。象。狐はおれからあづかったんだから鼻を無暗《むやみ》に引っぱらないで呉れ。よし。さあみんな行け。」
白熊《しろくま》も象も狐もみんな立ちあがりました。
狐は首を垂れてそれでもきょろきょろあちこちを盗み見ながら象について行き、白熊は鼻を押へてうちの方へ急ぎました。
獅子《しし》は葉巻をくはへマッチをすって黒い山へ沈む十日の月をじっと眺《なが》めました。
そこで
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