かにマラソンの方でございます。」
獅子は叫びました。
「それは偽《うそ》だ。それに第一おまへらにマラソンなどは要らん。そんなことをしてゐるからいつまでも立派にならんのだ。いま何を仕事にしてゐる。」
「百姓でございます。それからマラソンの方と両方でございます。」
「偽だ。百姓なら何を作ってゐる。」
「粟《あは》と稗《ひゑ》、粟と稗でございます。それから大豆《まめ》でございます。それからキャべヂでございます。」
「お前は粟を食べるのか。」
「それはたべません」
「何にするのだ。」
「鶏にやります。」
「鶏が粟をほしいと云ふのか。」
「それはよくさう申します。」
「偽だ。お前は偽ばっかり云ってゐる。おれの方にはあちこちからたくさん訴が来てゐる。今日はお前のせなかの毛をみんなむしらせるからさう思へ。」
狐《きつね》はすっかりしょげて首を垂れてしまひました。
「これで改心しなければこの次は一ぺんに引き裂いてしまふぞ。ガアッ。」
獅子《しし》は大きく口を開いて一つどなりました。
狐はすっかりきもがつぶれてしまってたゞ呆《あき》れたやうに獅子の咽喉《のど》の鈴の桃いろに光るのを見てゐます。
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