して又のそのそと歩き出しました。
月の青いけむりのなかに樹《き》のかげがたくさん棒のやうになって落ちました。
そのまっくろな林のなかから狐《きつね》が赤縞《あかじま》の運動ズボンをはいて飛び出して来ていきなり獅子の前をかけぬけようとしました。獅子は叫びました。
「待て。」
狐は電気をかけられたやうにブルルッとふるへてからだ中から赤や青の火花をそこら中へぱちぱち散らしてはげしく五六遍まはってとまりました。なぜか口が横の方に引きつってゐて意地悪さうに見えます。
獅子が落ちついてうで組みをして云ひました。
「きさまはまだ悪いことをやめないな。この前首すぢの毛をみんな抜かれたのをもう忘れたのか。」
狐がガタガタ顫《ふる》へながら云ひました。
「だ、大王様。わ、わたくしは、い今はもうしゃう正直でございます。」歯がカチカチ云ふたびに青い火花はそこらへちらばりました。
「火花を出すな。銅臭くていかん。こら。偽《うそ》をつくなよ。今どこへ行くつもりだったのだ。」
狐は少し落ちつきました。
「マラソンの練習でございます。」
「ほんたうだらうな。鶏を盗みに行く所ではなからうな。」
「いえ。たし
前へ
次へ
全11ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング