ない。いいねえ。」
「あの鱒なら近くで見たらこれくらゐあるねえ、たくさんさかな居るんだな、この水の中に。」
「小さなお魚もゐるんでせうか。」女の子が話につり込まれて云ひました。
「居るんでせう。大きなのが居るんだから小さいのもゐるんでせう。けれど遠くだから、いま小さいの見えなかつたねえ。」ジヨバンニはもうすつかり機嫌が直つて、面白さうにわらつて女の子に答へました。
「あれきつと雙子のお星さまのお宮だよ。」男の子が、いきなり窓の外をさして叫びました。
右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたやうな二つのお宮がならんで立つてゐました。
「雙子のお星さまのお宮つて何だい。」
「あたし前になんべんもお母さんから聞いたわ、ちやんと小さな水晶のお宮で二つならんでゐるからきつとさうだわ。」
「はなしてごらん。雙子のお星さまが何したつての。」
「ぼくも知つてらい。雙子のお星さまが野原へ遊びにでて、からすと喧嘩したんだらう。」
「さうぢやないわよ。あのね、天の川の岸にね、おつかさんお話なすつたわ。……」
「それから彗星《はうきぼし》が、ギーギーフーギーギーフーて云つて來たねえ。」
「いやだわたあちや
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