ながれてゐるのでした。うすあかい河原なでしこの花があちこち咲いてゐました。汽車はやうやく落ちついたやうにゆつくりと走つてゐました。
向うとこつちの岸に、星のかたちとつるはしを書いた旗がたつてゐました。
「あれ、何の旗だらうね。」ジヨバンニがやつとものを云ひました。
「さあ、わからないねえ。地圖にもないんだもの。鐵の舟がおいてあるねえ。」
「ああ。」
「橋を架けるとこぢやないんでせうか。」女の子が云ひました。
「ああ、あれ工兵の旗だねえ。架橋演習をしてるんだ。けれど兵隊のかたちが見えないねえ。」
その時向う岸ちかく、少し下流の方で、見えない天の川の水がぎらつと光つて、柱のやうに高くはねあがり、どおと烈しい音がしました。
「發破だよ。發破だよ。」カムパネルラはこをどりしました。
その柱のやうになつた水は見えなくなり、大きな鮭や鱒がきらつきらつと白く腹を光らせて空中に抛り出されて、圓い輪を描いてまた水に落ちました。
ジヨバンニはもうはねあがりたいくらゐ氣持が輕くなつて云ひました。
「空の工兵大隊だ。どうだ、鱒やなんかがまるでこんなになつてはねあげられたねえ。僕こんな愉快な旅はしたこと
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