とを見つめてゐました。
すきとほつた硝子のやうな笛が鳴つて、汽車はしづかに動き出し、カムパネルラもさびしさうに星めぐりの口笛を吹きました。
「ええ、ええ、もうこの邊はひどい高原ですから。」
うしろの方で誰かとしよりらしい人の、いま眼がさめたといふ風ではきはき話してゐる聲がしました。
「たうもろこしだつて棒で二尺も孔をあけておいて、そこへ播かないと生えないんです。」
「さうですか、川まではよほどありませうかねえ。」
「ええ、ええ、河までは二千尺から六千尺あります。もうまるでひどい峽谷になつてゐるんです。」
さうさう、ここはコロラドの高原ぢやなかつたらうか、ジヨバンニは思はずさう思ひました。
姉は弟を自分の胸によりかからせて睡らせながら、黒い瞳をうつとりと遠くへ投げて何を見るでもなしに考へ込んで居るのでしたし、カムパネルラはまたさびしさうにひとり口笛を吹き、男の子はまるで絹で包んだ苹果のやうな顏いろをしてねむつて居りました。
突然たうもろこしがなくなつて、巨きな黒い野原がいつぱいにひらけました。
新世界交響樂ははつきり地平線のはてから湧き、そのまつ黒な野原のなかを一人のインデア
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