た。
 ジヨバンニは、その小さく小さくなつていまはもう一つの緑いろの貝ぼたんのやうに見える森の上に、さつと青じろく時々光つて、その孔雀がはねをひろげたりとぢたりするのを見ました。
「さうだ、孔雀の聲だつてさつき聞えた。」カムパネルラが女の子に云ひました。
「ええ、三十疋ぐらゐはたしかに居たわ。」女の子が答へました。
 ジヨバンニは俄かに何とも云へずかなしい氣がして、思はず、
「カムパネルラ、ここからはねおりて遊んで行かうよ。」とこはい顏をして云はうとしたくらゐでした。
 ところがそのときジヨバンニは川下の遠くの方に不思議なものを見ました。
 それはたしかになにか黒いつるつるした細長いもので、あの見えない天の川の水の上に飛び出してちよつと弓のやうなかたちに進んで、また水の中にかくれたやうでした。をかしいと思つてまたよく氣を付けてゐましたらこんどはずつと近くでまたそんなことがあつたらしいのでした。そのうちもうあつちでもこつちでも、その黒いつるつるした變なものが水から飛び出して、圓く飛んでまた頭から水へくぐるのがたくさん見えて來ました。みんな魚のやうに川上へのぼるらしいのでした。
「まあ、何
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