でせう。たあちやん、ごらんなさい。まあ澤山だわね。何でせうあれ。」
睡むさうに眼をこすつてゐた男の子はびつくりしたやうに立ちあがりました。
「何だらう。」青年も立ちあがりました。
「まあ、をかしな魚だわ、何でせうあれ。」
「海豚です。」カムパネルラがそつちを見ながら答へました。
「海豚だなんてあたしはじめてだわ。けどここ海ぢやないんでせう。」
「いるかは海に居るときまつてゐない。」あの不思議な低い聲がまたどこからかしました。
ほんたうにそのいるかのかたちのをかしいことは、二つのひれを丁度兩手をさげて不動の姿勢をとつたやうな風にして水の中から飛び出して來て、うやうやしく頭を下にして不動の姿勢のまままた水の中へくぐつて行くのでした。見えない天の川の水もそのときはゆらゆらと青い焔のやうに波をあげるのでした。
「いるかお魚でせうか。」女の子がカムパネルラにはなしかけました。男の子はぐつたりつかれたやうに席にもたれて睡つてゐました。
「いるか、魚ぢやありません。くぢらと同じやうなけだものです。」カムパネルラが答へました。
「あなたくぢら見たことあつて。」
「僕あります。くぢら、頭と黒いしつぽ
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