。」ジヨバンニがききました。
「ここだよ。」カムパネルラは鷲の停車場の少し南を指さしました。
 川下の向う岸に青く茂つた大きな林が見え、その枝には熟してまつ赤に光る圓い實がいつぱい、その林のまん中に高い高い三角標が立つて、森の中からはオーケストラベルやジロフオンにまじつて何とも云へずきれいな音いろが、とけるやうに浸みるやうに風につれて流れて來るのでした。
 青年はぞくつとしてからだをふるふやうにしました。
 だまつてその譜を聞いてゐると、そこらにいちめん黄いろや、うすい緑の明るい野原か敷物かがひろがり、またまつ白な臘のやうな霧が太陽の面を擦めて行くやうに思はれました。
「まあ、あの烏。」カムパネルラのとなりの、かほると呼ばれた女の子が叫びました。
「からすでない。みんなかささぎだ。」カムパネルラがまた何氣なく叱るやうに叫びましたので、ジヨバンニはまた思はず笑ひ、女の子はきまり惡さうにしました。まつたく河原の青じろいあかりの上に、黒い鳥がたくさんたくさんいつぱいに列になつてとまつてぢつと川の微光を受けてゐるのでした。
「かささぎですねえ、頭のうしろのところに毛がぴんと延びてますから。」青
前へ 次へ
全90ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング