まかな波をたてたり、虹のやうにぎらつと光つたりしながら、聲もなくどんどん流れて行き、野原にはあつちにもこつちにも、燐光の三角標が、うつくしく立つてゐたのです。遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものは橙や黄いろではつきりし、近いものは青白く少しかすんで、或ひは三角形、或ひは四邊形、あるひは雷や鎖の形、さまざまにならんで、野原いつぱい光つてゐるのでした。ジヨバンニは、まるでどきどきして、頭をやけに振りました。するとほんたうに、そのきれいな野原中の青や橙や、いろいろかがやく三角標も、てんでに息をつくようにちらちらゆれたり顫へたりしました。
「ぼくはもう、すつかり天の野原に來た。」
 ジヨバンニは云ひました。
「それに、この汽車石炭をたいてゐないねえ。」
 ジヨバンニが左手をつき出して窓から前の方を見ながら云ひました。
「アルコールか電氣だらう。」カムパネルラが云ひました。
 するとちやうど、それに返事をするやうに、どこか遠くの遠くのもやの中から、セロのやうなごうごうした聲がきこえて來ました。
「ここの汽車は、ステイームや電氣でうごいてゐない。ただうごくやうにきまつてゐるからうごいてゐる
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