のだ。ごとごと音をたててゐると、さうおまへたちは思つてゐるけれども、それはいままで音をたてる汽車にばかりなれてゐるためなのだ。」
「あの聲、ぼくなんべんもどこかできいた。」
「ぼくだつて、林の中や川で、何べんも聞いた。」
 ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがへる中を、天の川の水や、三角標の青じろい微光の中を、どこまでもどこまでも走つて行くのでした。
「あありんだうの花が咲いてゐる。もうすつかり秋だねえ。」カムパネルラが窓の外を指さして云ひました。
 線路のへりになつたみじかい芝草の中に、月長石ででも刻まれたやうな、すばらしい紫のりんだうの花が咲いてゐました。
「ぼく、飛び下りて、あいつをとつて、また飛び乘つてみせようか。」ジヨバンニは胸を躍らせて云ひました。
「もうだめだ。あんなにうしろへ行つてしまつたから。」
 カムパネルラが、さう云つてしまふかしまはないうちに次のりんだうの花がいつぱいに光つて過ぎて行きました。
 と思つたら、もう次から次から、たくさんのきいろな底をもつたりんだうの花のコツプが、湧くやうに、雨のやうに、眼の前を通り、三角標の列は、け
前へ 次へ
全90ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング