ばめられてありました。
 ジヨバンニはなんだかその地圖をどこかで見たやうにおもひました。
「この地圖はどこで買つたの。黒曜石でできてるねえ。」ジヨバンニが云ひました。
「銀河ステーシヨンで、もらつたんだ。君もらはなかつたの。」
「ああ、ぼく銀河ステーシヨンを通つたらうか。いまぼくたちの居るとこ、ここだらう。」
 ジヨバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。
「さうだ。おや、あの河原は月夜だらうか。」
 そつちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。
「月夜でないよ。銀河だから光るんだよ。」ジヨバンニは云ひながら、まるではね上りたいくらゐ愉快になつて、足をこつこつ鳴らし、窓から顏を出して、高く高く星めぐりの口笛を吹きながら、一生けん命延びあがつて、その天の川の水を、見きはめようとしましたが、はじめはどうしてもそれがはつきりしませんでした。
 けれどもだんだん氣をつけて見ると、そのきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとほつて、ときどき眼の加減か、ちらちら紫いろのこ
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