よにさそつて出掛けたのだ。)とおもひながら、
「どこかで待つてゐようか。」と云ひました。
するとカムパネルラは
「ザネリはもう歸つたよ。お父さんが迎ひにきたんだ。」
カムパネルラは、なぜかさう云ひながら、少し顏いろが青ざめて、どこか苦しいといふふうでした。するとジヨバンニも、なんだかどこかに、何か忘れたものがあるといふやうな、をかしな氣持ちがしてだまつてしまひました。
ところがカムパネルラは、窓から外をのぞきながら、もうすつかり元氣が直つて、勢よく云ひました。
「ああしまつた。ぼく、水筒を忘れてきた。スケツチ帳も忘れてきた。けれど構はない。もうぢき白鳥の停車場だから。ぼく白鳥を見るなら、ほんたうにすきだ。川の遠くを飛んでゐたつて、ぼくはきつと見える。」
そして、カムパネルラは、圓い板のやうになつた地圖を、しきりにぐるぐるまはして見てゐました。
まつたく、その中に、白くあらはされた天の川の左の岸に沿つて一條の鐵道線路が、南へ南へとたどつて行くのでした。
そしてその地圖の立派なことは、夜のやうにまつ黒な盤の上に、一々の停車場の三角標、泉水や森が、青や橙や緑や、うつくしい光でちり
前へ
次へ
全90ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング