ると、さつきから、ごとごとごとごと、ジヨバンニの乘つてゐる小さな列車が走りつづけてゐたのでした。ほんたうにジヨバンニは、夜の輕便鐵道の、小さな黄いろの電燈のならんだ車室に、窓から外を見ながら坐つてゐたのです。車室の中は、青い天鵞絨を張つた腰掛けが、まるでがらあきで、向うの鼠いろのワニスを塗つた壁には、眞鍮の大きなぼたんが二つ光つてゐるのでした。
 すぐ前の席に、ぬれたやうにまつ黒な上着を着たせいの高い子供が、窓から頭を出して外を見てゐるのに氣が付きました。そしてそのこどもの肩のあたりが、どうも見たことのあるやうな氣がして、さう思ふと、もうどうしても誰だかわかりたくつてたまらなくなりました。
 いきなりこつちも窓から顏を出さうとしたとき、俄かにその子供が頭を引つ込めて、こつちを見ました。
 それはカムパネルラだつたのです。ジヨバンニが、
「カムパネルラ、きみは前からここに居たの。」と云はうと思つたとき、カムパネルラが、
「みんなはね、ずゐぶん走つたけれども遲れてしまつたよ。ザネリもね、ずゐぶん走つたけれども追ひつかなかつた。」と云ひました。
 ジヨバンニは(さうだ、ぼくたちはいま、いつし
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