そらにあげました。……(次の原稿幾枚かなし)……

 ジヨバンニは眼をひらきました。もとの丘の草の中につかれてねむつてゐたのでした。胸は何だかをかしく熱り、頬にはつめたい涙がながれてゐました。
 ジヨバンニは、ばねのやうにはね起きました。町はすつかりさつきの通りに下でたくさんの灯を綴つてはゐましたが、その光はなんだかさつきよりは熱したという風でした。
 そしてたつたいま夢であるいた天の川もやつぱりさつきの通りに白くぼんやりかかり、まつ黒な南の地平線の上では殊にけむつたやうになつて、その右には蝎座の赤い星がうつくしくきらめき、そこらぜんたいの位置はそんなに變つてもゐないやうでした。
 ジヨバンニは一さんに丘を走つて下りました。まだ夕ごはんをたべないで待つてゐるお母さんのことが、胸いつぱいに思ひだされたのです。どんどん黒い松の林の中を通つて、それからほの白い牧場の柵をまはつて、さつきの入口から暗い牛舍の前へまた來ました。
 そこには誰かがいま歸つたらしく、さつきなかつた一つの車が、何かの樽を二つ乘つけて置いてありました。
「今晩は。」ジヨバンニは叫びました。
「はい。」白い太いずぼんをはい
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