りかへつて見てゐました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて、向うにぼんやり見えてゐる橋の方へ歩いて行つてしまつたのでした。ジヨバンニはなんとも云へずさびしくなつて、いきなり走り出しました。すると耳に手をあてて、わああと云ひながら片足でぴよんぴよん跳んでゐた小さな子供らは、ジヨバンニが面白くてかけるのだと思つて、わあいと叫びました。
 どんどんジヨバンニは走りました。
 けれどもジヨバンニは、まつすぐに坂をのぼつて、おつかさんの家へは歸らないで、ちやうどその北の方の町はづれへ走つて行つたのです。そこには、河原のぼうつと白く見える小さな川があつて、細い鐵の欄干のついた橋がかかつてゐました。
(ぼくはどこへもあそびに行くとこがない。ぼくはみんなから、まるで狐のやうに見えるんだ。)
 ジヨバンニは橋の上でとまつて、ちよつとの間、せはしい息できれぎれに口笛を吹きながら泣き出したいのをごまかして立つてゐましたが、にはかにまたちからいつぱい走りだして、黒い丘の方へいそぎました。

       五 天氣輪の柱

 牧場のうしろはゆるい丘になつて、その黒い平らな頂上は、北の大熊星の下に、ぼんや
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