雜貨店の前で、黒い影やぼんやりした白いシヤツが入り亂れて、六七人の生徒らが口笛を吹いたり笑つたりして、めいめい烏瓜の燈火を持つてやつて來るのを見ました。その笑ひ聲も口笛もみんな聞きおぼえのあるものでした。ジヨバンニの同級の子供らだつたのです。ジヨバンニは思はずどきつとして戻らうとしましたが、思ひ直して一そう勢ひよくそつちへ歩いて行きました。
「川へ行くの。」ジヨバンニが云はうとして、少しのどがつまつたやうに思つたとき、
「ジヨバンニ、ラツコの上着が來るよ。」さつきのザネリがまた叫びました。
「ジヨバンニ、ラツコの上着が來るよ。」すぐみんなが、續いて叫びました。ジヨバンニはまつ赤になつて、もう歩いてゐるのかもよくわからず、急いで行きすぎようとしましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。カムパネルラは氣の毒さうに、だまつて少しわらつて、怒らないだらうかといふやうにジヨバンニの方を見てゐました。
ジヨバンニは、遁げるやうにその眼を避け、そしてカムパネルラのせいの高いかたちが過ぎて行つて間もなく、みんなはてんでに口笛を吹きました。町かどを曲るとき、ふりかへつて見ましたら、ザネリがやはりふ
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