ムパネルラはにわかに窓《まど》の遠くに見えるきれいな野原を指《さ》して叫《さけ》びました。
 ジョバンニもそっちを見ましたけれども、そこはぼんやり白くけむっているばかり、どうしてもカムパネルラが言《い》ったように思われませんでした。
 なんとも言《い》えずさびしい気がして、ぼんやりそっちを見ていましたら、向《む》こうの河岸《かわぎし》に二本の電信《でんしん》ばしらが、ちょうど両方《りょうほう》から腕《うで》を組んだように赤い腕木《うでぎ》をつらねて立っていました。
「カムパネルラ、僕《ぼく》たちいっしょに行こうねえ」ジョバンニがこう言《い》いながらふりかえって見ましたら、そのいままでカムパネルラのすわっていた席《せき》に、もうカムパネルラの形は見えず、ただ黒いびろうどばかりひかっていました。
 ジョバンニはまるで鉄砲丸《てっぽうだま》のように立ちあがりました。そして誰《だれ》にも聞こえないように窓《まど》の外へからだを乗《の》り出して、力いっぱいはげしく胸《むね》をうって叫《さけ》び、それからもう咽喉《のど》いっぱい泣《な》きだしました。
 もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思
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