神《かみ》さまです」
「だからそうじゃありませんか。わたくしはあなた方がいまにそのほんとうの神《かみ》さまの前に、わたくしたちとお会いになることを祈《いの》ります」青年はつつましく両手《りょうて》を組みました。
女の子もちょうどその通りにしました。みんなほんとうに別《わか》れが惜《お》しそうで、その顔いろも少し青ざめて見えました。ジョバンニはあぶなく声をあげて泣《な》き出そうとしました。
「さあもうしたくはいいんですか。じきサウザンクロスですから」
ああそのときでした。見えない天の川のずうっと川下に青や橙《だいだい》や、もうあらゆる光でちりばめられた十字架《じゅうじか》が、まるで一本の木というふうに川の中から立ってかがやき、その上には青じろい雲がまるい環《わ》になって後光のようにかかっているのでした。汽車の中がまるでざわざわしました。みんなあの北の十字のときのようにまっすぐに立ってお祈《いの》りをはじめました。あっちにもこっちにも子供が瓜《うり》に飛《と》びついたときのようなよろこびの声や、なんとも言いようない深《ふか》いつつましいためいきの音ばかりきこえました。そしてだんだん十字
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