架《じゅうじか》は窓《まど》の正面《しょうめん》になり、あの苹果《りんご》の肉《にく》のような青じろい環《わ》の雲も、ゆるやかにゆるやかに繞《めぐ》っているのが見えました。
「ハレルヤ、ハレルヤ」明るくたのしくみんなの声はひびき、みんなはそのそらの遠くから、つめたいそらの遠くから、すきとおったなんとも言《い》えずさわやかなラッパの声をききました。そしてたくさんのシグナルや電燈《でんとう》の灯《あかり》のなかを汽車はだんだんゆるやかになり、とうとう十字架《じゅうじか》のちょうどま向《む》かいに行ってすっかりとまりました。
「さあ、おりるんですよ」青年は男の子の手をひき姉《あね》は互《たが》いにえりや肩《かた》をなおしてやってだんだん向《む》こうの出口の方へ歩き出しました。
「じゃさよなら」女の子がふりかえって二人に言《い》いました。
「さよなら」ジョバンニはまるで泣《な》き出したいのをこらえておこったようにぶっきらぼうに言《い》いました。
女の子はいかにもつらそうに眼《め》を大きくして、も一|度《ど》こっちをふりかえって、それからあとはもうだまって出て行ってしまいました。汽車の中はもう
前へ
次へ
全110ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング