つか蠍《さそり》はじぶんのからだが、まっ赤なうつくしい火になって燃《も》えて、よるのやみを照《て》らしているのを見たって。いまでも燃《も》えてるってお父さんおっしゃったわ。ほんとうにあの火、それだわ」
「そうだ。見たまえ。そこらの三角標《さんかくひょう》はちょうどさそりの形にならんでいるよ」
ジョバンニはまったくその大きな火の向《む》こうに三つの三角標《さんかくひょう》が、ちょうどさそりの腕《うで》のように、こっちに五つの三角標《さんかくひょう》がさそりの尾《お》やかぎのようにならんでいるのを見ました。そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあかるくあかるく燃《も》えたのです。
その火がだんだんうしろの方になるにつれて、みんなはなんとも言《い》えずにぎやかな、さまざまの楽《がく》の音《ね》や草花のにおいのようなもの、口笛《くちぶえ》や人々のざわざわ言《い》う声やらを聞きました。それはもうじきちかくに町か何かがあって、そこにお祭《まつ》りでもあるというような気がするのでした。
「ケンタウル露《つゆ》をふらせ」いきなりいままで睡《ねむ》っていたジョバンニのとなりの男の子
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