ルドラの野原に一ぴきの蠍《さそり》がいて小さな虫やなんか殺《ころ》してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見つかって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命《めい》にげてにげたけど、とうとういたちに押《おさ》えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸《いど》があってその中に落《お》ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないで、さそりはおぼれはじめたのよ。そのときさそりはこう言《い》ってお祈《いの》りしたというの。
 ああ、わたしはいままで、いくつのものの命《いのち》をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命《めい》にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだを、だまっていたちにくれてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神《かみ》さま。私の心をごらんください。こんなにむなしく命《いのち》をすてず、どうかこの次《つぎ》には、まことのみんなの幸《さいわい》のために私のからだをおつかいください。って言《い》ったというの。
 そしたらい
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