岸《ぎし》の野原に大きなまっ赤な火が燃《もや》され、その黒いけむりは高く桔梗《ききょう》いろのつめたそうな天をも焦《こ》がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおり、リチウムよりもうつくしく酔《よ》ったようになって、その火は燃《も》えているのでした。
「あれはなんの火だろう。あんな赤く光る火は何を燃《も》やせばできるんだろう」ジョバンニが言《い》いました。
「蠍《さそり》の火だな」カムパネルラがまた地図と首《くび》っぴきして答えました。
「あら、蠍《さそり》の火のことならあたし知ってるわ」
「蠍《さそり》の火ってなんだい」ジョバンニがききました。
「蠍《さそり》がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃《も》えてるって、あたし何べんもお父さんから聴《き》いたわ」
「蠍《さそり》って、虫だろう」
「ええ、蠍《さそり》は虫よ。だけどいい虫だわ」
「蠍《さそり》いい虫じゃないよ。僕《ぼく》博物館《はくぶつかん》でアルコールにつけてあるの見た。尾《お》にこんなかぎがあってそれで螫《さ》されると死《し》ぬって先生が言《い》ってたよ」
「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さんこう言《い》ったのよ。むかしのバ
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