を出すのがつらかったので、だまってこらえてそのまま立って口笛《くちぶえ》を吹《ふ》いていました。
(どうして僕《ぼく》はこんなにかなしいのだろう。僕《ぼく》はもっとこころもちをきれいに大きくもたなければいけない。あすこの岸《きし》のずうっと向《む》こうにまるでけむりのような小さな青い火が見える。あれはほんとうにしずかでつめたい。僕《ぼく》はあれをよく見てこころもちをしずめるんだ)
ジョバンニは熱《ほて》って痛《いた》いあたまを両手《りょうて》で押《おさ》えるようにして、そっちの方を見ました。
(ああほんとうにどこまでもどこまでも僕《ぼく》といっしょに行くひとはないだろうか。カムパネルラだってあんな女の子とおもしろそうに談《はな》しているし僕《ぼく》はほんとうにつらいなあ)
ジョバンニの眼《め》はまた泪《なみだ》でいっぱいになり、天の川もまるで遠くへ行《い》ったようにぼんやり白く見えるだけでした。
そのとき汽車はだんだん川からはなれて崖《がけ》の上を通るようになりました。向《む》こう岸《ぎし》もまた黒いいろの崖《がけ》が川の岸《きし》を下流《かりゅう》に下るにしたがって、だんだん高
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