たそのきれいな皮《かわ》も、くるくるコルク抜《ぬ》きのような形になって床《ゆか》へ落《お》ちるまでの間にはすうっと、灰《はい》いろに光って蒸発《じょうはつ》してしまうのでした。
二人《ふたり》はりんごをたいせつにポケットにしまいました。
川下の向《む》こう岸《ぎし》に青く茂《しげ》った大きな林が見え、その枝《えだ》には熟《じゅく》してまっ赤に光るまるい実《み》がいっぱい、その林のまん中に高い高い三角標《さんかくひょう》が立って、森の中からはオーケストラベルやジロフォンにまじってなんとも言《い》えずきれいな音《ね》いろが、とけるように浸《し》みるように風につれて流《なが》れて来るのでした。
青年はぞくっとしてからだをふるうようにしました。
だまってその譜《ふ》を聞いていると、そこらにいちめん黄いろや、うすい緑《みどり》の明るい野原《のはら》か敷物《しきもの》かがひろがり、またまっ白な蝋《ろう》のような露《つゆ》が太陽《たいよう》の面《めん》をかすめて行くように思われました。
「まあ、あの烏《からす》」カムパネルラのとなりの、かおると呼《よ》ばれた女の子が叫《さけ》びました。
「か
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