わからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進《すす》む中でのできごとなら、峠《とうげ》の上りも下りもみんなほんとうの幸福《こうふく》に近づく一あしずつですから」
燈台守《とうだいもり》がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至《いた》るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです」
青年が祈《いの》るようにそう答えました。
そしてあの姉弟《きょうだい》はもうつかれてめいめいぐったり席《せき》によりかかって睡《ねむ》っていました。さっきのあのはだしだった足にはいつか白い柔《やわ》らかな靴《くつ》をはいていたのです。
ごとごとごとごと汽車はきらびやかな燐光《りんこう》の川の岸《きし》を進《すす》みました。向《む》こうの方の窓《まど》を見ると、野原はまるで幻燈《げんとう》のようでした。百も千もの大小さまざまの三角標《さんかくひょう》、その大きなものの上には赤い点々をうった測量旗《そくりょうき》も見え、野原《のはら》のはてはそれらがいちめん、たくさんたくさん集《あつ》まってぼおっと青白い霧《きり》のよう、そこからか、またはもっと向《む》
前へ
次へ
全110ページ中64ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング