、もう渦《うず》にはいったと思いながらしっかりこの人たちをだいて、それからぼうっとしたと思ったらもうここへ来ていたのです。この方たちのお母さんは一|昨年《さくねん》没《な》くなられました。ええ、ボートはきっと助《たす》かったにちがいありません、なにせよほど熟練《じゅくれん》な水夫《すいふ》たちが漕《こ》いで、すばやく船からはなれていましたから」
そこらから小さな嘆息《たんそく》やいのりの声が聞こえジョバンニもカムパネルラもいままで忘《わす》れていたいろいろのことをぼんやり思い出して眼《め》が熱《あつ》くなりました。
(ああ、その大きな海はパシフィックというのではなかったろうか。その氷山《ひょうざん》の流《なが》れる北のはての海で、小さな船に乗《の》って、風や凍《こお》りつく潮水《しおみず》や、はげしい寒《さむ》さとたたかって、たれかが一生けんめいはたらいている。ぼくはそのひとにほんとうにきのどくでそしてすまないような気がする。ぼくはそのひとのさいわいのためにいったいどうしたらいいのだろう)
ジョバンニは首《くび》をたれて、すっかりふさぎ込《こ》んでしまいました。
「なにがしあわせか
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