《こうふく》だとも思いました。それからまた、その神《かみ》にそむく罪《つみ》はわたくしひとりでしょってぜひとも助《たす》けてあげようと思いました。けれども、どうしても見ているとそれができないのでした。子どもらばかりのボートの中へはなしてやって、お母さんが狂気《きょうき》のようにキスを送《おく》りお父さんがかなしいのをじっとこらえてまっすぐに立っているなど、とてももう腸《はらわた》もちぎれるようでした。そのうち船はもうずんずん沈《しず》みますから、私たちはかたまって、もうすっかり覚悟《かくご》して、この人たち二人を抱《だ》いて、浮《う》かべるだけは浮《う》かぼうと船の沈《しず》むのを待《ま》っていました。誰《だれ》が投《な》げたかライフヴイが一つ飛《と》んで来ましたけれどもすべってずうっと向《む》こうへ行ってしまいました。私は一生けん命《めい》で甲板《かんぱん》の格子《こうし》になったとこをはなして、三人それにしっかりとりつきました。どこからともなく三〇六番の声があがりました。たちまちみんなはいろいろな国語で一ぺんにそれをうたいました。そのときにわかに大きな音がして私たちは水に落《お》ち
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