いたのです。ところがちょうど十二日目、今日か昨日《きのう》のあたりです、船が氷山《ひょうざん》にぶっつかって一ぺんに傾《かたむ》きもう沈《しず》みかけました。月のあかりはどこかぼんやりありましたが、霧《きり》が非常《ひじょう》に深《ふか》かったのです。ところがボートは左舷《さげん》の方|半分《はんぶん》はもうだめになっていましたから、とてもみんなは乗《の》り切らないのです。もうそのうちにも船は沈《しず》みますし、私は必死《ひっし》となって、どうか小さな人たちを乗《の》せてくださいと叫《さけ》びました。近くの人たちはすぐみちを開いて、そして子供たちのために祈《いの》ってくれました。けれどもそこからボートまでのところには、まだまだ小さな子どもたちや親たちやなんかいて、とても押《お》しのける勇気《ゆうき》がなかったのです。それでもわたくしはどうしてもこの方たちをお助《たす》けするのが私の義務《ぎむ》だと思いましたから前にいる子供らを押《お》しのけようとしました。けれどもまた、そんなにして助《たす》けてあげるよりはこのまま神《かみ》の御前《みまえ》にみんなで行く方が、ほんとうにこの方たちの幸福
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