いことないのです。わたしたちはこんないいとこを旅《たび》して、じき神《かみ》さまのとこへ行きます。そこならもう、ほんとうに明るくてにおいがよくて立派《りっぱ》な人たちでいっぱいです。そしてわたしたちの代《か》わりにボートへ乗《の》れた人たちは、きっとみんな助《たす》けられて、心配《しんぱい》して待《ま》っているめいめいのお父さんやお母さんや自分のお家へやら行くのです。さあ、もうじきですから元気を出しておもしろくうたって行きましょう」青年は男の子のぬれたような黒い髪《かみ》をなで、みんなを慰《なぐさ》めながら、自分もだんだん顔いろがかがやいてきました。
「あなた方はどちらからいらっしゃったのですか。どうなすったのですか」
 さっきの燈台看守《とうだいかんしゅ》がやっと少しわかったように青年にたずねました。青年はかすかにわらいました。
「いえ、氷山《ひょうざん》にぶっつかって船が沈《しず》みましてね、わたしたちはこちらのお父さんが急《きゅう》な用《よう》で二か月前、一足さきに本国へお帰りになったので、あとから発《た》ったのです。私は大学へはいっていて、家庭教師《かていきょうし》にやとわれて
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