まいました。
「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお仕事《しごと》があるのです。けれどももうすぐあとからいらっしゃいます。それよりも、おっかさんはどんなに永《なが》く待《ま》っていらっしゃったでしょう。わたしの大事《だいじ》なタダシはいまどんな歌をうたっているだろう、雪《ゆき》の降《ふ》る朝にみんなと手をつないで、ぐるぐるにわとこのやぶをまわってあそんでいるだろうかと考えたり、ほんとうに待《ま》って心配《しんぱい》していらっしゃるんですから、早く行って、おっかさんにお目にかかりましょうね」
「うん、だけど僕《ぼく》、船に乗《の》らなけぁよかったなあ」
「ええ、けれど、ごらんなさい、そら、どうです、あの立派《りっぱ》な川、ね、あすこはあの夏じゅう、ツィンクル、ツィンクル、リトル、スターをうたってやすむとき、いつも窓《まど》からぼんやり白く見えていたでしょう。あすこですよ。ね、きれいでしょう、あんなに光っています」
 泣《な》いていた姉《あね》もハンケチで眼《め》をふいて外を見ました。青年は教えるようにそっと姉弟《きょうだい》にまた言《い》いました。
「わたしたちはもう、なんにもかなし
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