ネクテカット州《しゅう》だ。いや、ああ、ぼくたちはそらへ来たのだ。わたしたちは天へ行くのです。ごらんなさい。あのしるしは天上のしるしです。もうなんにもこわいことありません。わたくしたちは神《かみ》さまに召《め》されているのです」黒服《くろふく》の青年はよろこびにかがやいてその女の子に言《い》いました。けれどもなぜかまた額《ひたい》に深《ふか》く皺《しわ》を刻《きざ》んで、それにたいへんつかれているらしく、無理《むり》に笑《わら》いながら男の子をジョバンニのとなりにすわらせました。それから女の子にやさしくカムパネルラのとなりの席《せき》を指《ゆび》さしました。女の子はすなおにそこへすわって、きちんと両手《りょうて》を組み合わせました。
「ぼく、おおねえさんのとこへ行くんだよう」腰掛《こしか》けたばかりの男の子は顔を変《へん》にして燈台看守《とうだいかんしゅ》の向《む》こうの席《せき》にすわったばかりの青年に言《い》いました。青年はなんとも言《い》えず悲《かな》しそうな顔をして、じっとその子の、ちぢれたぬれた頭を見ました。女の子は、いきなり両手《りょうて》を顔にあててしくしく泣《な》いてし
前へ 次へ
全110ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング